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提姆奧瑟 | 2022-01-14 11:45:42 | 巴幣 104 | 人氣 186


「何読んでるの」
 
と、俺は静かに読書している彼女に声かけた。
 
「運動に関する知識よ」
 
気だるそうに、返事をした彼女。
 
放課後、斜陽の輝きに照らされた彼女の短髪が一層きらりと光り、少々色あせた小麦色の肌を金色に、寒色の制服をアンバランスに強調した。
 
「今更これを読んでも益なしとでもいいようなまなざしだな」
 
「いや、純粋になんの本かが気になる」
 
「あんまり本を読まない私に対して、最もな懐疑だ」
 
陸上の才能の持ち主だった彼女が、この部活の時間に。
 
俺みたいなロクデナシとだべっているのだ。
 
「なぁ、私を幸福な人間と呼べるのだろうか」
 
「わからない。お前のいる世界は俺には遠すぎた」
 
「怪我のおかげで、ゆとりを取り戻せた。いいことではないか」
 
「お前はそれでいいなら」
 
「ためらいがあるよね。人間て、複雑で難解。こうして好きな君と無意味に過ごすのもいいし、コースで汗を流すのもいい」
 
「随分と楽観的だな」
 
「まぁね、じゃなけりゃ、鬱になりすぎて学校にも来れないところだったよ」
 
「……お前が少し楽になれるなら、協力するよ」
 
「協力するところで状況が改善するようなものじゃないよ」
 
「それは承知の上だ、俺が言いたいのは、暇つぶしは付き合ってやるということだ」
 
「暇つぶしねぇ……な、今私が猛勉強したら、受験に間に合えるかな」
 
「少なくとも最下位の大学はないだろう、人並みの成績でも行けるんじゃない」
 
「なら勉強するかしないかは大して影響はないみたいだね」
 
「だな」
 
「……今、私の胸には言い表せない気持ちがある。モヤモヤして、はっきりしない」
 
「どんな感情だそれ」
 
「そうだろうね、なんだろうか。今までは明確にゴールへ向かって走っていたのに、今は終着点が見えないまま、彷徨っているだけの抜け殻」
 
「おい、暗くなってるぞ。大丈夫、アイスおごろうか」
 
「平気よ。この抜け殻は、今までのない『自由』を手に入れたから」
 
彼女の笑みに、掛ける言葉はどうにも見つからなかった。

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