電擊徒然草 第54回 壁井ユカコさん

電撃の作家さんたちが、日頃の想いのままを書きつづるこのコーナー。今回は今月『キーリ』シリーズ完結巻が刊行される壁井ユカコさんの登場だ！ 
  
第五十四回　壁井ユカコさん 
 
5月18日生まれウシ座Ｂ型。沖縄出身の父と北海道出身の母を持つ信州育ちの東京在住。出不精。でも都会の雑踏や雑音に触れるのは好き。もう少し世の中のいろんなことに一生懸命になれる人間になりたいなあと思いつつ犬をいじりながらゆるめに生きています。

【電撃文庫作品】
キーリ　死者たちは荒野に眠る
キーリII　砂の上の白い航跡
キーリIII　惑星へ往く囚人たち
キーリIV　長い夜は深淵のほとりで
キーリV　はじまりの白日の庭（上）
キーリVI　はじまりの白日の庭（下）
キーリVII　幽谷の風は吠きながら
キーリVIII　死者たちは荒野に永眠る（上）
キーリIX　死者たちは荒野に永眠る（下）
カスタム‧チャイルド
鳥籠荘の今日も眠たい住人たち（1）

鳥籠荘の今日も眠たい住人たち（2）
鳥籠荘の今日も眠たい住人たち（3）

【電撃文庫ビジュアルノベル】
キーリ WILD AND DANDELION

【単行本】
NO CALL NO LIFE
イチゴミルク ビターデイズ

『ハツコイ』 
 
いわゆる幼なじみというのか、小学校から中学卒業まで同じクラスだった男子がいた。色が白い華奢な感じの子だった。登下校のバスも同じで何かと一緒にいることが多かった。といっても家が近くてよく遊ぶ男子は他にもいたし、彼はその仲良しグループの一人だったにすぎない。けれど私にとって、彼との距離感はその他の男子と常に少し違っていた。
どっちかというと彼は無口なほうで、そばにいることは多かったわりにそんなに喋った記憶がない。隣にいると妙に緊張して、会話の糸口や距離の取り方に戸惑った。それでも何故か近くにいたくて、自由時間には無意識に彼の姿を捜していた。それは小学生の私が誰にもばれないように隠し持っていた小さな秘密で、たとえば修学旅行の就寝時間後とか、女子のあいだで好きな男子を告白しあうような場面で、他の男子の名前を出すことはあっても彼について触れることは決してなかった。
中学生になってから友だち数人で小学校に遊びに行った。日曜日の校舎を懐かし半分で探険して、ふと気がつくと彼と二人きりになっていた。放送室かどこかだったと思う、暗くて狭い空間で、少し怖くなって私は彼の服の袖を掴んだ。そのままお互い固まったきりひと言も喋らなかった。緊張した時間がしばらく過ぎて、みんなの声が近づいてきたとき、ほっとしたような残念なような気分だった。
九年間、そんな関係が続いた。
高校は別々になったが、帰りの電車で何度かばったり一緒になった。私も彼も帰宅部だったので、午後三時台のまだ乗客が少ない時間。「制服似合うじゃん」「おう」なんて短い会話を交わしたあとは、ドアを挟んで両側に立ったきりこれといって喋らなくなる。ひと駅分の六分間がひどく居心地悪く、一方でこのままずっと一緒に乗っていたい気もした。
それきり彼とは会っていない。もし今になって再会することがあったとしたら、高校時代のあの午後の気怠い日が射す電車内での六分間と同じように、会話のはずまない居心地の悪さとくすぐったいような緊張感が同居する感覚を、きっと未だに味わうことになるのだろうと思う。
少し気恥ずかしい、たぶん初恋の話。 
 
さ～て次回は『二階の妖怪王女』でお馴染みのあらいりゅうじ先生の登場だ！　お楽しみに～！！