電擊徒然草 第47回 橋本 紡さん

電撃の作家さんたちが、日頃の想いのままを書きつづるこのコーナー。今回は8月に単行本『猫泥棒と木曜日のキッチン』を刊行する橋本 紡さんの登場です！！ 
  
第四十七回　橋本 紡さん 

三重県伊勢市出身。第4回電撃ゲーム小説大賞で金賞を受賞。大好きなのは眠ること。平気で十二時間くらい寝てるので、人生のほぼ半分は寝てるらしい。もったいない気もするけど、それはそれで幸せだったり。小さな家に人間ふたりと猫二匹で暮らしている。

最新刊単行本『猫泥棒と木曜日のキッチン』は今月発売！

【電撃文庫作品】
猫目狩り＜上＞
猫目狩り＜下＞
バトルシップガール
バトルシップガール(2) 隠された惑星
バトルシップガール(3) ファリナス襲来
バトルシップガール(4) 戦いの果てに
バトルシップガール(5) ナツミをさがせ！
バトルシップガール(6) 右から二番目の星へ
バトルシップガールSP いつの日か
リバーズ‧エンド
リバーズ‧エンド２ slash the heart
リバーズ‧エンド３ free the birds
リバーズ‧エンド４ over the distance
リバーズ‧エンド５ change the world
リバーズ‧エンド　afterdays
毛布おばけと金曜日の階段
半分の月がのぼる空 looking up at the half-moon
半分の月がのぼる空2 waiting for the half-moon
半分の月がのぼる空3 wishing upon the half-moon
半分の月がのぼる空4 grabbing at the half-moon
半分の月がのぼる空5 long long walking under the half-moon
半分の月がのぼる空6 life goes on
半分の月がのぼる空7 another side of the moon-first quarter
半分の月がのぼる空8 another side of the moon-last quarter

【電撃文庫ビジュアルノベル】
君と僕の歌 World's end
半分の月がのぼる空 one day

【単行本】
猫泥棒と木曜日のキッチン

【電撃コミックス】
半分の月がのぼる空（1）

【画集】
山本ケイジ画集 半月－HANGETSU－

『猫バカと或る日の四畳半。』
 
二十代半ばの僕はとても貧乏だった。どれくらい貧乏だったかというと、まず部屋は四畳半だった。電気は料金未払いのせいで毎月のようにとまった。ガスもとまった。水道もとまった。もちろん電話は真っ先にとまっていた。一度、それでひどい目にあったことがある。当時付き合っていた女の子と映画を見に行く約束をしたのだが、つい三時間ほど寝坊してしまったのだ。すっぽかしを食らった彼女は、怒り狂いつつ、僕の家に電話をかけてきた。が、つながらなかった。お客様のご都合により、この回線は使用できません――なんてメッセージが流れてきたそうである。そう、電話は見事にとまっていたのだった。いつまでたっても僕は来ない……電話はとまっている……この人とは別れようかと、彼女は真剣に悩んだそうである。ありとあらゆる手段で謝った結果（思い出すと泣けてくるので詳細は書きません）、どうにか許してもらえたけれど、あれはなかなか辛い体験でした。
さて、そんなふうに貧乏だった僕は、たった一枚のパンと、一つの卵で、日々を乗り切っていた。給料日は遠かった。財布には小銭しかなかった。小さなオムレツは、精一杯の贅沢だった。その贅沢品である小さなオムレツを作り、バターもジャムも塗ってないパンを囓ろうとしたところ、窓から猫が二匹入ってきた。親猫と子猫だった。にゃあ、と親猫が鳴いた。にゃあ、と子猫も鳴いた。とんでもない難問だった。僕だってお腹は空いている。毎日毎日、パン一枚と卵一個しか食べていないのだ。しかし猫たちは切なそうな目で見つめてくる。やむなく、オムレツを半分あげた。子猫はおいしそうにその半分のオムレツを食べた。親猫は残りの半分、つまり僕の分を物欲しそうに見つめた。……気がつくと、僕のオムレツは四分の一になっていた。
そういう体験を元に書いたのが、『猫泥棒と木曜日のキッチン』なのでした。

追記　すっぽかし話を同居人にしたところ、彼女はちゃんと覚えてました。「あー、もー、思い出すだけで腹が立つよね！」とのこと。まだ怒ってるみたいです（涙）。 
 
さ～て次回は5月に『僕らはどこにも開かない』でデビュー、只今新作執筆中の御影瑛路先生の登場だっ。お楽しみに～！！