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第一部士兵的女兒 既得利益與會晤的結果

作者:SPT草包│2017-05-26 17:46:06│巴幣:2│人氣:278
本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~
以下犯上的書癡~為了成為圖書管理員而不擇手段~
作者:香月美夜
第一部兵士の娘 既得権益と会合の結果
第一部士兵的女兒 既得利益與會晤的結果
原文連結

 わたしが安定を望んだ契約魔術のせいで、人死になんてでませんように。
 由於我期望安定的契約魔術的緣故,為了不會有死人什麼的。

 ベンノの言葉はわたしにとって恐怖だった。ルッツと自分の職業上の安定が欲しかっただけで、誰かに危害をもたらしたかったわけではない。
 班諾的話語對我來說是很恐怖的。就只是想要路茲和自己職業上的安定,但不想要讓某人受到危害。
 ガクガクブルブルしながら、わたしはルッツと一緒に家に帰った。鉛でも呑みこんだように胃の辺りが重くて、ぐるぐるしている。
 一邊抖動哆嗦,我一邊與路茲一起回家。像是吞了鉛般胃的附近很沉重,咕嚕咕嚕轉著。

「そんなに心配しなくても大丈夫だって。旦那が何とかしてくれるさ」
「就算不用那麼樣地擔心也不要緊。老闆會去設法解決的」

 ルッツの慰めに頷きながら帰ったけれど、知らない人がいきなり死んだり、何か罰を受けたりしていないか、考えるだけで、不安で、不安で仕方がない。胃がキリキリする。
 雖然說一邊對路茲的安慰點頭一邊回去,有沒有不認識的人突然死了、受到了什麼樣的懲罰呢,就只能思考著,很不安,很不安而毫無辦法。胃刺痛著。

 何が怖いって、何も知らない人を巻き込むのが怖い。
 要說什麼很恐怖,把什麼都不知道的人捲了進來很恐怖。

 本当は家の中で引きこもっていたかったけれど、「じっとしていたら、変な事を考えそうだ」というルッツに半ば無理やり外に引っ張り出された。紙を作ったり、森に行ったりしながら、ベンノからの連絡を待っていることしかできない現状がもどかしい。
 雖然說其實是想避居在家裡面,被說著「一動也不動的話,似乎在思考著奇怪的事情」的路茲絆強硬地拉到外面。只能一邊又是製做紙張、又是去到森林,一邊等待著來自班諾的聯絡的現狀令人著急。
 しかし、数日たって森に行くために門を通っても、オットーから何か言われることはなかった。不審な死を遂げた人の話も聞かない。わたしの周りはあまりにもいつも通りだった。
 但是,就算經過數天為了去森林而通過門,也沒有被歐拓說了什麼。造就了可疑死亡的人的事情也沒聽說。我的周圍太過於依舊如是了。

 さらに何日か経つと、恐怖よりベンノに対する不信感が募り始めた。本当に人死になんて出るのだろうか。ベンノが大袈裟に言っているだけではないだろうか。
 更加經過了幾天後,比起恐怖對班諾的不信任感開始更來越深。真的會出現死人什麼的嗎。不是只是班諾誇張地在說著的嗎。
 そんな風に考えながら、ベンノの言葉を思い返してみたり、表情や態度を思い返してみたりする。
 一邊那樣子考慮著,一邊試著回想著班諾的話語,試著回想表情或態度。

「……よく考えると変じゃない?」
「……好好思考的話不是很怪嗎?」
「何が?」
「是什麼?」

 簀桁を傾けて、フォリン紙を作っていたルッツが、わたしの言葉に眉をしかめた。紙床に漉けた紙を重ねた後、わたしはルッツを振りかえる。
 傾斜簀桁,製做著佛林紙的路茲,對我的話語緊蹙著眉頭。重疊抄紙於紙床上之後,我讓路茲回頭。

「契約魔術を知らない人にも効力があるってところ」
「是說對不知道契約魔術的人也有效力的地方」
「なんで? 魔術なんだから不思議じゃないだろ?」
「為什麼? 不是因為是魔術才不可思議的嗎?」

 軽い口調でそう言いながら、ルッツが漉き終わった紙を重ねに来たので、今度はわたしが紙を漉き始める。
 由於一邊以輕鬆的語調說著,路茲一邊重疊著結束抄起的紙過來了,這一次我開始抄紙。

「魔術だから不思議じゃないってところが、わたしにとっては変だよ。だいたい、基本的な技術とか、ありふれた商品に契約魔術がかかっていたら、あっちこっちで被害が出るでしょ? 遠くの街で契約魔術が使われていても、こっちには全然わからないわけだし……」
「要說不是因為是魔術才不可思議的地方,對我來說才奇怪唷。再說了,是基本的技術嗎、契約魔術消耗在常見的商品上的話,到處都會出現受害的對吧? 是就算契約魔術被使用在遠方的城市裡,這邊也完全不知道這理由……」
「まぁ、確かにそうだな」
「也對,的確是那樣呢」

 わたしは紙を漉きながら考える。契約魔術に特許権のようなシステムが組み込まれるとしたら、特許庁のように管理する場所があるはずだ。この商品にはこういう契約魔術が付いてるよ、とみんなに知らせなければ、危険すぎる。
 我一邊抄紙一邊思考著。專利權般的系統被編入契約魔術上的話,應該會有像是專利局般管理著的地方。在這個商品上加上這種契約魔術了唷,不讓大家知道的話,太危險了。

「わたし達が知らないだけで、契約魔術にも範囲や条件があると思うんだよね。それに、そんな危険な魔術ならもっと厳しく取り締まりとかありそうじゃない?」
「我認為就只是我們不知道,在契約魔術上是有範圍或條件的唷。而且,如果是那樣危險的魔術不是會有更嚴格的管制嗎?」
「遠回しに色々言っているけど、結局、マインは何が不安なんだ?」
「雖然委婉地說了各式各樣的,結果,瑪茵不安的是什麼?」
「不安って……」
「不安是說……」

 ルッツの言葉に思わず手が止まった。ルッツが横からわたしの簀桁を取り上げて、続きを漉き始めた。
 對路茲的話語不由得停下了手。路茲從旁邊拿走了我的簀桁,開始抄著後續。

「マインが自分の気持ちを誤魔化したい時は、早口になるんだ」
「瑪茵想欺瞞自己的心情的時候,會變得講話很快」

 ルッツはくっと少しだけ顎を上げて、「溜めこまれてもオレにはわからないから、全部吐き出せ」と促した。
 路茲稍微用力揚起下巴,催促著「因為被就算積壓我也不知道,全部吐出來」

「……契約魔術を知らない人が危険に巻き込まれるのが怖い。ベンノさんの冗談か嘘だって思いたい。今は誰も危ない目に遭ってないよね? わたし達を怖がらせようとしただけだよね?……そう思いたい」
「……不知道契約魔術的人被捲入危險裡面很恐怖。想認為班諾先生的玩笑話是謊言。現在誰都沒遭遇危難吧? 只是打算嚇唬我們的吧?……想要那樣認為」
「まぁ、旦那の冗談だったらいいけど、何のために? 旦那がオレ達を騙して一体何の得があるんだよ?」
「也好,雖然是老闆的玩笑也好,但為了什麼? 老闆欺騙我們到底有什麼利益嗎?」
「うっ……。い、今までだって、いっぱい騙されてきたもん。またベンノさんに誤魔化されたり、隠し事をされたり、試されたりしてるような気がする」
「嗚……。就、就連至今,都是一堆被欺騙了的東西。感覺好像又是被班諾先生欺騙,又是被隱藏的事情,又是被測試著」

 わたし達を遠ざけて、何かするつもりなんじゃ……と言いかけたところで、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
 疏遠我們,是打算要做什麼……在剛要開口的時候,聽到了來自背後有著耳熟的聲音。

「あれ? ベンノって意外とマインちゃんに信用されてないんじゃないか?」
「奇怪? 是說班諾是不是意外地沒有被小瑪茵信任呢?」

 誰もいないと思っていた倉庫の中で、背後から声が聞こえたことに驚いて、わたしとルッツがバッと振り返る。
 在想著誰都不在的倉庫裡面,驚訝於聽到來自背後的聲音,我與路茲突然回過頭去。

「オットーさん!?」
「歐拓先生!?」
「どうしてここに!?」
「怎麼會在這裡!?」

 軽く片方の眉を上げて、おどけたような顔をした私服のオットーがひらひらと手を振っていた。
 輕輕揚起一邊的眉毛,做出滑稽表情的便服的歐拓輕飄飄地揮著手。

「ベンノからの伝言を持ってきたに決まってるだろ?」
「必然是帶來了來自班諾的口信的吧?」
「伝言!?」
「口信!?」

 確かにベンノからはオットーを通じて連絡すると言われていたが、門を通りかかった時にでもそっと連絡されるのかと思っていた。こんな風に倉庫にやってくるとは思っていなかった。
 的確有被說過來自班諾會透過歐拓做聯絡,但卻想說是在剛好通過門的時候悄悄地被聯絡。沒有想過會是這個樣子在倉庫裡被做著。

「やっと終わったってさ」
「說是終於結束了呀」

 そんな簡単な伝言では何もわからない。少ない情報の中で胃をキリキリさせていたわたしはオットーに情報を求めて飛びついた。
 用那樣簡單的口信是什麼都不知道的。胃在沒多少情報之下刺痛著的我飛撲向歐拓尋求著情報。

「何が終わったんですか!? どう終わったんですか!?」
「是什麼結束了呢!? 如何結束的呢!?」
「それはもう、色々大変だったみたいだよ」
「那個是說,好像各式各樣的辛苦著喔」
「色々って何があったんですか!?」
「各式各樣是說發生了什麼了嗎!?」

 オットーは軽く肩を竦めるだけで、答えらしい答えをくれることはなかった。本当に知らないのか、知っているのに知らないふりをしているのか、全くわからない。
 歐拓就只是輕輕聳了聳肩,沒有給出像是答案的答案。其實是不知道的嗎,明明知道卻表現出假裝不知道的嗎,還是完全不知道。

「ベンノは説明してなかったのか?」
「班諾沒有做說明嗎?」
「ほとんど聞いてません。契約魔術を知らない人が勝手に紙を作って売ったら大変なことになる。製法を伏せるためにも羊皮紙協会との話が終わるまで店に出てくるなってことだけです」
「幾乎沒聽說。不知道契約魔術的人擅自製做紙張賣掉的話會變成很嚴重的事情。只是說了為了隱瞞製法直到跟羊皮紙協會的對話結束之前都別進出店裡」

 わたしがベンノから聞いたことを説明すると、オットーは軽く顎を撫でた。
 我說明了從班諾那聽到的事情後,歐拓輕輕撫摸著下巴。

「ふーん、一応必要最小限は聞かされているんじゃないか」
「呼,不是姑且聽到了必要的最小限度了嗎」
「契約魔術のせいで、知らない誰かに被害はなかったですか? それが一番心配で……」
「由於契約魔術的緣故,沒有不知道的某人受害了嗎? 那個是最擔心的……」
「そうならないように、製法を伏せたんだろう? 被害は全く出てない。それ以上はベンノに直接聞いた方が良いだろうね。作業が一段落したら、一緒に行くかい?」
「好像沒有變成那樣,所以隱瞞了製法對吧? 受害完全沒出現。那之後直接跟班諾打聽會比較好對吧。作業告一段落的話,要一起去嗎?」
「はい!」
「要!」

 被害者はいなかったという言葉に胸のつかえが取れた。一気に身体が軽くなった気分で、わたしはせっせと紙を漉き始める。
 胸口的鬱悶被所謂沒有受害者的話語拿掉了。用身體一口氣變輕的心情,我一個勁地開始抄紙。

「これで紙が作れるの? これ、何?」
「紙張就用這個製做嗎? 這個,是什麼?」
「企業秘密です」
「是商業機密」
「何かドロドロしてるけど、何が入っているの?」
「雖然有什麼黏黏糊糊著,但放了什麼呢?」
「企業秘密です」
「是商業機密」

 興味深そうに紙漉きを見ては色々と質問してくるオットーに少しも答えず、作業を続ける。
 對興致濃厚似地看著抄紙提出各式各樣質問的歐拓一點也沒有回答,繼續作業。

「俺とマインちゃんの仲だし、教えてくれてもいいじゃないか」
「我與小瑪茵的關係,不是告訴我也可以的嗎」
「ほいほい喋ったらベンノさんに怒られるんです。ね、ルッツ?」
「隨意說出的話會被班諾先生罵的。對吧,路茲?」

 わたしがルッツに水を向けると、ルッツは肩を竦めてニッと笑った。
 我把話題轉給路茲後,路茲聳聳肩裂開嘴笑了。

「マインは考え無しだって、よく言われてるからな。ちゃんと口は閉じておいた方が良いんだ」
「因為瑪茵會毫無考慮,經常被說呢。稍微先閉上嘴會比較好」
「ハハハ……。考え無しに喋っているんだ? 青筋を立てて怒るベンノが目に浮かぶな」
「哈哈哈……。毫無考慮地說著嗎? 青筋暴露著生氣的班諾浮現眼前了呢」
「青筋っていうよりは、呆れ果ててるって感じの表情が多いですけどね」
「比起所謂的青筋,感覺驚呆了的表情還比較多就是了呢」

 道具の片付けを終わらせた後、三人でベンノの店に向かう。路地を抜けて通りに出るより早くオットーがこめかみを押さえながら、わたしを見下ろした。
 將工具的整理結束了之後,三個人朝向班諾的店。比穿過巷弄出來大街還早歐拓一邊壓著太陽穴,一邊俯視著我。

「……いつもこんな速さで歩いているのか?」
「……總是用這樣的速度走著的嗎?」
「……そうですけど?」
「……雖然是沒錯?」
「ぅわぁ、すごいな、ルッツ。ちょっと尊敬する。俺には耐えられない。……というわけで、ちょっと失礼」
「哇,好厲害呢,路茲。有點尊敬了。我是無法忍受的。……就是這樣,稍微失禮了」
「ひゃあっ!」
「嚇啊!」

 耐えられないと言ったオットーに、よいしょっと担ぎあげられた。オットーはそのままスタスタと歩きだす。そういえば、ベンノにもマルクにも最近は抱き上げられてばかりだ。
 被說著無法忍耐的歐拓,輕輕地抬了上來。歐拓就那樣急急忙忙地走了起來。這麼說來,最近都盡是被班諾或馬爾克抱了起來。
 どうやら、大人にとってわたしのスピードは、抱き上げずにはいられないほど遅いらしい。ショックだ。
 看樣子,對大人來說我的速度,似乎是需要被抱起來般的慢。震驚了。

 ベンノの店に着くと、マルクが出迎えてくれた。
 到了班諾的店後,馬爾克來迎接了。

「マイン、ルッツ、こんにちは。それから、この度は何から何までお世話になりました、オットー様」
「瑪茵、路茲,你好。還有,這一次一切的一切都多謝關照了,歐拓大人」
「たまにはいいんだよ。面白かったし。ベンノ、奥にいる?」
「偶爾是可以的喔。很有趣的。班諾,在裡面嗎?」

 頭を下げるマルクに軽く返して、オットーはさっさと奥に入っていく。片手でわたしを抱き上げたまま、もう片手で奥の部屋のドアを開けた。
 輕輕對低下頭的馬爾克回應,歐拓快速地進去了裡面。仍舊以一隻手抱起了我,用另一隻手打開裡面房間的門。

「ベンノ、水の女神の到着だよ」
「班諾,水之女神到達了喔」

 意味不明のことを言いながら、オットーが部屋に入った瞬間、ベンノから殺気を含んだ実に迫力のある眼光が飛ばされる。
 一邊說著意義不明的事情,歐拓一邊進入房間的瞬間,來自班諾飽含殺氣確實有著震撼力的目光被飛了過來。
オットーに抱き上げられているせいで、とばっちりを食らったわたしの方がビクッとした。
由於被歐拓抱了起來,遭到池魚之殃的我嚇了一大跳。

「黙れ、オットー。コリンナと離縁させられたいのか?」
「閉嘴,歐拓。想要被跟柯琳娜離婚嗎?」

 コリンナの父親代わりであるベンノには離縁させる権限があるらしい。オットーは婿同然だと言っていたし、一族の長のような立場なのだろう。
 身為柯琳娜父親代理的班諾似乎有著讓她離婚的權限。有說過歐拓是女婿一樣,是一族之長般的立場對吧。
 ベンノの眼光と低い声に本気成分がかなり含まれていると判断したのはわたしだけではなかったらしい。コリンナを世界の中心に据えているオットーは慌てて弁明し始めた。
 判斷著班諾的目光與低沉的聲音裡認真的成分被相當飽含著的似乎不是只有我。將柯琳娜安置在世界的中心的歐拓慌慌張張開始辯解。

「ぅわぁっ! 嘘だって! ちょっとした冗談じゃないか!」
「哇! 是亂說的! 不能稍微開點玩笑嗎!」
「笑えない冗談は冗談じゃないんだ」
「笑不出來的玩笑才不是玩笑」

 じゃれついているのか本気なのか判別しにくい表情で、ベンノがギリギリとオットーの頭を締め付け始める。オットーに落とされそうで怖いので、止めて欲しい。
 用難以判別是在嬉戲嗎還是當真呢的表情,班諾開始緊緊地擰住歐拓的頭。由於快被歐拓弄掉而害怕著,希望能停止。

「ベンノさん、なんかご機嫌斜めですね?」
「班諾先生,總覺得心情很不好呢?」
「こいつのせいだ」
「是這傢伙的錯」

 じろりとベンノがオットーを睨むが、オットーは気にした様子も見せずにわたしをそっと床に下ろしてくれた。
 雖然班諾惡狠狠地盯著歐拓,但歐拓卻看不出介意的樣子將我給輕輕地放到了地板上。

「ベンノって、意外と信用されてなかったよ。マインちゃんがぶーぶー文句言ってたぜ。またベンノさんに誤魔化されたり、隠し事をされてたり、試されたりしてるような気がするって」
「是說班諾,意外地不被信任著喔。小瑪茵不滿地抱怨著。說是感覺好像又是被班諾先生欺騙,又是被隱藏的事情,又是被測試著」

 ベンノが怒っているのがわかるような気がする。絶対にオットーが余計な一言を言ったのだ。相手が怒ることを解って言っているに違いない。
 感覺好像明白班諾在生氣著。絕對是歐拓說了多餘的一句話。對方肯定是明白會生氣才會說的。

「オットーさんは余計なこと言わないで!」
「歐拓先生別說多餘的事情!」

 オットーの言葉を聞いたベンノが気を悪くするかと思って、わたしはそっとベンノの様子を伺う。しかし、気分を害した様子はなく、ベンノはわたしを見て、疲れたように溜息を吐いた。
 認為班諾是聽到歐拓先生的話語才心情不好,我悄悄地窺視著班諾的樣子。但是,沒有損害心情的樣子,班諾看著我,疲憊似地嘆了一口氣。

「ハァ……。マインは勘が良いのか? それとも、疑い深いのか? 性格が悪いのか? せっかく俺がわざわざ面倒事から遠ざけてやったんだから、おとなしくてしていればいいのに……」
「唉……。瑪茵是直覺很好嗎? 還是說,生性多疑呢? 性格不好嗎? 因為難得我特地做出從麻煩事裡疏遠開來,明明老老實實待著就好了……」
「でも、他人の言葉を鵜呑みにしないっていうのは商人として大事だから、言葉や行動の裏を読もうとするのは正解だろ?」
「但是,因為所謂不要囫圇吞棗別人的話語作為商人是很重要的,打算解讀話語與行動的背後是正解的吧?」

 オットーがニヤッと笑って、親指をぐっと立てた。
 歐拓賊笑著,使勁地豎起大拇指。

「まぁ、いい。質問には答えてやろう。座れ」
「算了,也好,來回答質問吧。坐下」

 いつものテーブルに向かって席に着くと、わたしは開口一番、気になっていたことをベンノに尋ねた。
 往平常的桌子坐到位置上後,我最先開口,詢問班諾在意著的事情。

「契約魔術って、本当に関係のない人も巻き込むんですか?」
「話說契約魔術,沒有關係的人真的也會捲進來嗎?」
「内容によっては巻き込むこともある。今回は下手したら巻き込む可能性があった。そう説明したはずだが?」
「根據內容也會有捲進來的事情。這次低聲下氣的話有捲進來的可能。應該做過那樣的說明了吧?」

 確かに、そう言われた。説明はされたけれど、納得できなかったのだ。
 的確,被那樣說過。雖然被說明了,但無法理解。

「でも、基本的な技術とか、ありふれた商品や技術に契約魔術がかかっていたら、あっちこっちで被害が出るでしょ? 外国で契約魔術が使われていても、こっちには全然わからないわけだし……何か効力を発する条件とか、範囲があるんじゃないですか? あと、契約魔術を管理しているようなところとか……」
「但是,是基本的技術嗎、契約魔術消耗在常見的商品上的話,到處都會出現受害的對吧? 在外國就算契約魔術被使用了,這邊是完全不知道的,……是有什麼發生效力的條件嗎,是不是有著範圍的呢? 還有,是管理著契約魔術般的地方嗎……」

 わたしが考えたことを述べると、ベンノは軽く目を見張った後、頷いた。
 敘述了我所思考的事情後,班諾輕輕張大了眼睛之後,點了點頭。

「あぁ、契約魔術が効くのは、基本的に契約を交わした街だけだ。街の中で起こった小規模な魔術が街を囲む外壁に張り巡らされた魔術結界を通り抜けることはない」
「啊,契約魔術有效的是,只有基本上交換了契約的城市。在城市裡面發生的小規模的魔術是無法穿過被包圍著城市的外牆圍著的魔術結界」
「魔術結界!? 何ですか、それ!?」
「魔術結界!? 是什麼呀,那個!?」

 初めて聞くファンタジーな設定に胸が弾んで、思わず身を乗り出して質問したけれど、じろりとベンノに睨まれてしまった。
 胸口對初次聽到的幻想的設定彈了一下,雖然說不假思索地探出身體質問,但被班諾凶狠地盯著。

「街の基礎だが、今はどうでもいいことだ。今回のことに関する質問と説明は終了でいいのか?」
「雖然是城市的基礎,但現在怎樣都好。有關這次事情的質問與說明可以完結了嗎?」
「あぁ、ダメです! 契約魔術って、本当に知らない人にも影響があるなら、すごく危険なものじゃないですか。そんなものをほいほい使えるなんておかしいじゃないですか」
「啊,不行! 話說契約魔術,如果真的對不知道的人也有影響,不是非常危險的東西嗎。隨意使用那種東西不是很奇怪嗎」

 不愉快そうにベンノが眉を片方だけ上げて、わたしを睨んだ。
 班諾不愉快似地揚起只有一邊的眉毛,盯著我。

「契約魔術はほいほい使えるようなものじゃない。必要な魔術具は認められた商人にしか与えられない上に、目玉が飛び出るほど高価だ。それに、お前も考えたように、契約者以外にも影響を及ぼす契約魔術は必ず領主様への報告が必要になる。報告なしに被害が出たら、罰されるのはこっちだ」
「契約魔術才不是隨意使用般的東西。在必要的魔術具只會被給予被認可的商人上,是眼球彈出來般的昂貴的。而且,就像妳也考慮過,契約者以外也會受到影響的契約魔術給領主大人的報告必定會變得需要。沒有報告而出現受害的話,被處罰的是這邊」
「え? じゃあ……」
「咦? 那麼……」

 報告を忘れていて、被害が出そうになって慌てていたのか、と思った瞬間、ベンノが軽くデコピンした。
 是忘了報告,造成受害快出現而驚慌著嗎,那樣認為的瞬間,班諾輕輕彈了額頭。

「ふきゃん!」
「呼洽!」
「勘違いするなよ。領主様にはとっくに報告済みだ」
「別誤解了喔。早已跟領主大人報告完畢了」

 口に出す前にバレた。
 在說出口前暴露了。
 わたしが額を押さえて唸っていると、ベンノはフンと鼻を鳴らして、勝ち誇ったように唇の端を上げた。
 我捂著額頭呻吟著時,班諾似乎讓鼻子哼了一聲,像是誇耀著勝利般揚起了嘴唇邊。

「領主様に報告した時に、新しい商品に関する契約魔術として商業ギルドにも報告と登録をしておくように言われた」
「在跟領主大人報告的時候,作為有關新商品的契約魔術被說了像是也先去跟商業公會報告與登記」
「……ということは、商業ギルドにも報告はしたんですよね?」
「……這麼說來,也有跟商業公會做報告了呢?」
「もちろん行ったさ。契約魔術の報告と登録。それから、協会の新規立ち上げの許可を取りにな」
「當然去了。契約魔術的報告與登記。還有就是,取得了新設協會的啟動許可呢」
「はい?」
「啥?」

 協会の新規立ち上げって何ですか? 何するつもりですか? もしかして、ものすごく余計な事をしようとしてませんか?
 是說新設協會的啟動是什麼呢? 是打算做什麼呢? 莫非,是不是打算要做非常多餘的事情呢?

 あまりにも予想外な言葉に、わたしは軽く目を見張って首を傾げる。そんなわたしを見て、ベンノは腹が立つようなしたり顔で得意そうに胸を張った。
 對相當出乎預料的話語,我輕輕睜大了眼睛感到疑惑。看到那樣的我,班諾用做出生氣般臉得意似地廷起了胸口。

「植物紙は一大事業になりそうな商品だろう? だから、羊皮紙協会のように植物紙協会を作って、他の街にも事業を広げていくことにした」
「植物紙是能成為一大事業般的商品對吧? 所以,決定創造了像是羊皮紙協會的植物紙協會,在其他城市也能擴大事業」
「……初耳ですけど?」
「……第一次聽說就是了?」

 ひくっと顔を引きつらせたわたしに、ベンノは当たり前だと頷いた。
 對讓臉抽蓄痙攣的我,班諾理所當然般地點著頭。

「今初めて言ったからな」
「因為現在第一次說呢」
「ちょ、ちょっと待ってください。それって、既得権益に正面から喧嘩売ってるじゃないですか!? 話し合いなんて穏便に終わるわけがないですよ!」
「請、請稍微等一下。那樣,不就是從正面跟既得利益大吵一架了嗎!? 協商什麼的不可能溫和地結束唷!」

 なんでここまで強気でGO!GO!できるのか、全くわからない。根回しとか、譲り合いとか、落とし所がどこにも見当たらない。
 為什麼到了這裡要強硬地做到上吧上吧呢,完全不明白。是做了事先疏通嗎,還是互相妥協呢,妥協點那裡都找不到。

「穏便に終わらなかったのは、俺のせいじゃない。あのくそじじいのせいだ」
「沒有溫和地結束,並不是我的錯。是那個臭老頭的錯」
「責任転嫁ですか?」
「轉嫁責任嗎?」

 うぅ~と唸ってベンノを睨むと、ベンノの隣に座っているオットーが腹を抱えて笑い始めた。どこに笑いのツボがあったのか、わからないので、ベンノと二人で一瞥しただけで放置する。
 嗚~地呻吟著瞪著班諾後,坐在班諾的隔壁的歐拓開始抱著肚子笑著。是哪有有笑點嗎,由於不明白,跟班諾兩個人就只是一撇就放置了。

「責任転嫁でもない。登録するために商業ギルドへ行ったんだが、契約魔術を結んだ時点では現物がないので、登録不可能だと言われてな。試作品ができた時点で、登録に行ったんだ」
「也不是轉嫁責任。為了登記而往商業公會去,由於在締結契約魔術的時間點沒有實物,被說了不可能登記。在做好試作品的時間點,去登記了」
「はぁ」
「啥」
「だが、俺が新しい協会を作るということが気に入らないギルド長がうだうだ言いやがって、申請したのに最終的な処理が季節を越えても終わってなかったらしい」
「但是,所謂我創造了新的協會而很不順眼的公會長囉囉嗦嗦說個沒完,明明是要做申請最終的處理就算超出了季節似乎也沒有結束」

 そういえば、自分達の仮登録にもギルド長が口出ししていた。髪飾りの取引がしたいギルド長が仕方なさそうに仮登録の許可をくれたけれど、かなり渋々だった記憶がある。
 這麼說來,我們自己的臨時登記也是公會長插嘴著。雖然說想做髮飾交易的公會長毫無辦法似地給予了臨時登記的許可,但有著相當勉勉強強的記憶。

「わたし達の仮登録の時もそうでしたけど、ギルド長の私的な理由で登録を引きのばしたり、却下したりできるんですか?」
「雖然我們臨時登記的時候也是那樣做了,可以又是以公會長的私人理由拉長了登記,又是不予受理嗎?」
「一応もっともらしい理由がつけられる。仮登録の時は俺の血縁ではないことが理由だっただろう? 今回はすでに羊皮紙という紙があるから、植物紙の協会を新たに作る必要が感じられないそうだ」
「姑且被加上了煞有介事的理由。臨時登記的時候是以不是我的血緣的理由對吧? 這次是因為已經有所謂羊皮紙的紙張了,重新創造植物紙協會的必要似乎沒感覺到」

 心底嫌そうなベンノの顔に、二人が顔を合わせていた時の雰囲気が脳裏に蘇ってきた。険悪で、始終揚げ足の取り合いをしていたような気がする。
 對似乎打心底討厭著的班諾的表情,兩個人互相對看著的時候的氛圍在腦海裡復甦了。感覺好像因險惡而,始終在互相挑著毛病。

「何か二人のやり取りが想像できました」
「總覺得能想像兩個人的交流」
「秋に申請済みだったから、まさか登録されていないなんて考えずに今回紙を売ったんだ。確かに俺の注意も足りなかったが、これは責任転嫁か?」
「因為是在秋季申請完畢,這次沒考慮到怎麼可能還沒有被登記之類的而販賣了紙張。雖然確實是我的注意也不夠,但這是轉嫁責任嗎?」

 じろりと睨まれて、わたしは慌てて首を振った。
 被凶狠地瞪著,我驚慌地搖了搖頭。

「えーと、商業ギルドの怠慢だと思います」
「呃,我認為是商業公會的懈怠」
「そうだ。登録されていない紙を売ったことで、羊皮紙協会が文句を付けてきたんだ。くそじじいも自分の所業を棚に上げて、最初から向こうの肩を持ちやがって……」
「沒錯。因沒有被登記而販賣紙張,羊皮紙協會抱怨了起來。臭老頭也將自己的所作所為置之不理,從最初就擁有面對的肩膀……」

 どうやら、ベンノの敵は既存権益の羊皮紙協会ではなくて、ギルド長だったらしい。
 這麼看來,班諾的敵人不是既得利益的羊皮紙協會,似乎是公會長。

「商業ギルドに登録するように領主様から言われていたのに、契約魔術の登録が終わっていない状態で、知らない人に被害が出た場合、どうなると思う?」
「明明為了登記在商業公會裡而被領主大人說了,卻以契約魔術的登記沒有結束的狀態,不知道的人出現受害的情況,妳認為會變怎樣?」

 登録するように言われていたのにやっていないのは、かなり心証が悪いだろうし、重罪になると思う。
 明明為了登記而被說了卻沒有去做,印象會相當壞,我認為會變成重罪。

「領主様からすごく怒られると思います」
「我認為非常會被領主大人責罵」
「あぁ、契約魔術に必要な魔術具は取り上げられるし、以後、貴族との取引は制限されるし、領主様から契約者に対して罰が与えられる。そうなったら、くそじじいに絶好のネタを与えることになるからな。登録が終わるまでは紙の製法を知られるわけにはいかなかったんだ」
「對,在契約魔術上必要的魔術具會被拿走,以後,與貴族的交易會被限制,會被給予來自領主大人對於契約者的懲罰。變成那樣的話,因為會變成給予臭老頭的絕好材料呢。在登記結束之前不能被知道紙張的製法」
「なるほど」
「原來如此」

 ギルド長に対する警戒だったとすれば、厳重さにも頷ける。
 出於對公會長的警戒的話,嚴格也能理解。

「だが、面倒すぎる大人の駆け引きにお前達を巻き込むわけにはいかんだろう? 何より、マインは周囲への影響を深く考えずに、顔見知りで命の恩人だから、と大した警戒もせずにぺらぺらと重要な情報を喋りそうだからな」
「但是,不能將你們捲進太過麻煩的大人的討價還價裡對吧? 再說了,瑪茵沒深入思考對周圍的影響,因為是熟識的救命恩人,所以不大會去警戒而流利地說出重要的情報似的呢」
「えぇ!? わたし、そんなに信用ないんですか!?」
「咦!? 我,那麼樣沒有信用嗎!?」
「今までの積み重ねだ。自分の所業を思い返せ」
「是累積到至今的。重新想想自己的所作所為」
「ぅぐぅ……」
「咕……」

 ギルド長の家でやらかしたあれこれを思い出して、わたしは言葉に詰まった。確かに、ベンノの立場で考えれば、何をしでかすかわからないわたしは、隔離しておくのが一番だ。
 回想起在公會長的家搞得這個那個,我頓時語塞了。確實,用班諾的立場考慮的話,不明白惹出什麼的我,先隔離起來是最優先的。

「だいたいの背景はわかりました。それで、羊皮紙協会との会合は大変だったんですか?」
「大致的背景我明白了。還有,與羊皮紙協會的會晤很辛苦嗎?」
「そっちは根回しだけしておけば、大したことない。面倒なのは、あのくそじじいだけだ」
「那邊只要事先疏通的話,沒多了不起。麻煩的,就只有那個臭老頭」

 やっぱりギルド長がラスボスか。まさか既得権益がベンノにとって雑魚だったとは。
 果然公會長是最後大魔王嗎。沒想到既得利益對班諾來說就只是雜魚。
 胃を痛めながら紙を漉いていた時には思いもよらない展開だ。
 是在一邊胃痛一邊抄紙的的時候萬萬沒想到的展開。

 おとなしく話を聞いていたオットーがニヤニヤ笑いながら、口を開いた。
 歐拓老老實實地聽著談話一邊邪惡地笑著,一邊開口了。

「俺も連れ出されて、その会合に行ったんだけど、羊皮紙協会は妥協案で最終的に合意したよ」
「我也被帶去了,雖然說是去那個會晤,羊皮紙協會在最後同意了妥協方案喔」
「妥協案?」
「妥協方案?」
「紙の用途を分けるってヤツだ」
「說是區分紙張用途的玩意兒」
「あぁ……」
「啊……」

 ベンノの言葉に自分が提案したことを思い出して、ポンと手を打った。これで妥協してくれたということは、一応羊皮紙の領分を守りながら、広く紙を普及させることができるということだ。
 回想起自己對班諾的話語做了提案,碰地敲了手。所謂就這樣給妥協了,是指一邊姑且保護著羊皮紙的領域,一邊能做到擴大讓紙張普及。
 これはわたしの本作りにとっても一歩前進ではないだろうか。流通する紙が増えて値段が下がれば、それだけ本が作りやすくなる。
 這個對我的寫書不也算是前進一步了嗎。流通的紙張增加而價錢下降的話,那樣書本就會變容易製作了。

 やっと紙の心配をせずに本が作れるようになるんだ。
 終於不用去擔憂紙張而書本變得能製作了。

 ベンノが工房を作って大量生産が始まれば、紙の心配がなくなりそうだ。次はインクと印刷について考えなければ、と思考を飛ばしているわたしの前では、オットーも何やら楽しそうだ。
 班諾創造了工坊開始大量生產的話,擔憂紙張似乎會消失。下次必須要來思考關於墨水與印刷了,在那樣放空思考著的我面前,歐拓也總覺得似乎很快樂。

「それで、今まで譲ることがなかったベンノの気を変えたのは誰だ!? とうとう水の女神がベンノにも現れたかって噂になったんだよ」
「因此,讓至今毫不退讓的班諾的想法改變了的是誰!? 終於變成水之女神也對班諾顯現了嗎的傳聞了喔」
「水の女神って?」
「水之女神是說?」

 会合の小難しい話から横道にそれたことで、雰囲気が柔らかくなったのか、ルッツが口を開いた。
 由於從會晤的小困難話題離題了,氣氛變柔和了嗎,路茲開口了。

「雪を溶かす春の先触れ。長い冬に終わりをもたらす女神だよ」
「讓雪融化的春天的前兆。是為漫長冬季帶來終結的女神喔」

 オットーの言葉にわたしはふっと我に返った。そういえば、ここの神話は全く知らない。新春の挨拶に神が出てくるくらいなのだから、生活の中に潜んでいるのかもしれない。
 我因歐拓的話語忽然返回了我。這麼說來,這邊的神話完全不知道。因為像是在新春的問候時神出來了,在生活之中潛伏著也說不定。

「……その水の神様って、新春の挨拶に使っていた春の女神とは別の神様なんですか?」
「……是說那個水神大人,與被使用在新春問候的春之女神是其他的神明大人嗎?」
「別っていうか……雪を溶かす水の女神や芽吹きの女神や春に関係する女神を全部まとめて春の女神って言うんだよ?」
「該說是別的嗎……把融雪的水之女神或萌芽的女神或關係到春天的女神都全部歸類稱為春之女神喔?」
「へぇ」
「哦」

 多神教というだけで、少し馴染めそうな気がするのはわたしだけだろうか。少なくとも麗乃時代から馴染みのない一神教を強要する世界ではないようだ。洗礼式に対する緊張が少し解けた。
 就只是所謂的多神教,感覺好像稍微適應的就只有我嗎。起碼似乎不是強迫從麗乃時代就無法適應的一神教的世界。對於洗禮式的緊張稍微消除了。

「……それだけ?」
「……只是那樣?」

 きょとんとした顔でオットーがそう言った。せっかく色々話してくれたのに、「へぇ」の一言では確かに失礼だったかもしれない。
 歐拓用作為發楞的表情那樣說了。明明難得給說了各式各樣的,卻用「哦」一句話卻時是很失禮也說不定。

「え? えーと……女神様についてわかって嬉しいです。今度ぜひ他の神様の話もお願いします」
「咦? 呃……明白了關於女神大人很高興。這一次其他神明大人的話題也務必拜託了」
「そういう意味じゃなくて、ベンノの……」
「並不是那個意思,班諾的……」
「オットー、追い出されたいのか?」
「歐拓,想被趕出去嗎?」

 もどかしそうなオットーにベンノの低い声がかかった。
 對似乎很著急的歐拓發出了班諾低沉的聲音。
 何となくわたしの察しが悪かったのが原因だったような気がするが、ベンノの怒った顔を見る限りでは、わからなくて正解という感じがひしひしとする。
 雖然總覺得感覺好像我的察覺是不好的的原因,但據看到班諾生氣的表情,深深感到無法明白所謂的正解。

「そういえば、なんでオットーさんが会合に参加したんですか?」
「說起來,為什麼歐拓先生會參加會晤呢?」

 コリンナと別れさせると言いだしたベンノを止めるために、わたしはオットーに助け船を出してみた。
 為了制止說出與柯琳娜分別的班諾,我試著對歐拓放出救生艇。
 ベンノの意識をこちらに向けることには成功したようだ。パッとオットーから手を離して、こちらを向いたベンノの隣で、オットーが「助かった」と目で合図してくる。
 讓班諾的意識向著這邊似乎是成功了。突然從歐拓身上放開了手,在轉向這邊的班諾隔壁,歐拓用眼神給打了「得救了」的暗號。

「植物紙協会が動き始めたら、手伝ってもらうつもりだからだ」
「因為植物紙協會開始運轉的話,是打算請求幫忙」
「え? それって、オットーさんが商人になるってことですか!?」
「哎? 那是說,歐拓先生要成為商人了嗎!?」

 コリンナとの結婚のために商人の道を諦めたオットーが再び商人になれる日がやってきたということだろうか。
 是所謂為了與柯琳娜結婚而放棄商人之路的歐拓再次成為商人的日子來臨了嗎。
 喜ばしいことだと思ったわたしに、ベンノは軽く頭を振った。
 對想著可喜可賀的我,班諾輕輕搖了搖頭。

「いや、オットーはあくまで兵士。それ以外の時にこき使うだけだ」
「不是,歐拓是徹底的士兵。就只是在那以外的時間任意驅使」
「ええぇぇ!? ひどくないですか!?」
「咦咦!? 不是很過分嗎!?」

 兵士の仕事が終わってから、ベンノに商人としてこき使われるなんて、さすがに可哀想だ。声を上げたわたしの横でルッツも頷いている。
 因為士兵的工作結束,就要被班諾作為商人任意驅使什麼的,畢竟是很可憐的。在發出聲音的我的側邊的路茲也點著頭。
 しかし、ベンノはフンと鼻を鳴らして、オットーを見るとニヤリと笑う。
 但是,班諾將鼻子哼了一聲,看著歐拓賊賊地笑著。

「コリンナのために家賃分働くのは当然だ。なぁ、オットー?」
「為了柯琳娜房租份的勞動是當然的。對吧,歐拓?」
「家賃分以上働かされていると思うけど?」
「雖然認為是被做了房租份以上的勞動?」

 黒い笑顔で睨みあう二人の視界にわたしとルッツは入っていない。
 在用黑色的笑容互相瞪著的兩個人的視野裡我與路茲都沒有進入。
 いつまで続くかわからない睨みあいに飽きて、わたしはトントンと机を叩いた。
 厭煩了不知道會持續到何時的互相瞪視,我咚咚地敲著桌子。

「ベンノさん、続きが聞きたいです。ギルド長とは結局どうなったんですか?」
「班諾先生,我想聽後續。公會長結果變成怎樣了呢?」

 ベンノはオットーから視線を外して、こちらに向き直った。肩を軽く竦めた後、勝利の笑みを浮かべる。
 班諾從歐拓那移開視線,重新轉向這邊。輕輕聳著肩膀之後,浮現了勝利的笑容。

「妥協点を出すことで、羊皮紙協会が植物紙協会の設立に合意したんだから、渋々ギルド長も認めたさ」
「因為由於提出了妥協點,羊皮紙協會同意植物紙協會的設立,公會長也勉勉強強認可了」
「認めさせた、の間違いだろう?」
「是讓他認可,毫無疑問的吧?」

 オットーの横やりが入ったけれど、これは多分オットーが正しいと思う。なるほど、と頷いたわたしとルッツを見て、ベンノがチッと舌打ちした。
 雖然說歐拓插嘴進來,但這個我想大概歐拓是正確的。看著原來如此、地點著頭的我與路茲,班諾嘖地咋舌了。

「きっちり揃えた書類の数々、羊皮紙協会との和解、被害者も何も出ずに済んだのに、このまま登録を長引かせるのは、商業ギルドの怠慢だ」
「明明好好備齊許多文件、與羊皮紙協會的和解、不論受害者或什麼都沒出現而做完了,就這樣拖長了登記,是商業公會的懈怠」
「あぁ、それはそうだねぇ。でも、耄碌して書類が読めなくなっているなら、引退を考えた方が良いんじゃないか? とか、なんだったら俺が代わってやろうか? っていうのは、必要ない言葉だったと思うよ?」
「啊,那樣說也對呢。但是,如果老邁而變得無法閱讀文件,考慮引退是不是會比較好呢? 之類,那樣的話要由我來代替去做嗎? 這樣說著,我認為是不必要的話語喔?」

 オットーの暴露にわたしはひいぃっと息を呑んだ。
 我對歐拓的揭露唏咿地喘不上氣。

「そういうことを言うから! 生意気だと目を付けられて、面倒なことになるんですよ! ギルド長、怒ってたでしょう?」
「因為說了那樣的事情! 自大而被矚目,會變成麻煩事的喔! 公會長,生氣了對吧?」
「顔を真っ赤にして怒ってたよ。人の顔ってあそこまで赤くなるんだね」
「滿臉通紅地生氣著喔。人的臉會變得如此的紅呢」

 呑気な声でオットーは追加情報をくれたけれど、全く嬉しくない情報だった。
 雖然說歐拓以悠閒的聲音給了追加情報,但完全是不該高興的情報。
 ベンノも「あれは見ものだった」なんて言って、オットーと頷き合っている。
 班諾也「那真是值得一看」那樣說著,與歐拓互相點著頭。

「あんなくそじじいい、いくらでも怒らせておけばいい。今回はアイツの嫌がらせで、しなくて良い苦労をしたんだからな」
「那樣對臭老頭很好了,多少也要先惹火才好。因為這次是由於那傢伙的刁難,做了沒做就好的苦勞呢」

 今回のことで、ギルド長とベンノの間の溝はさらに深く、そして、広くなったようだ。
 由於這次的事情,公會長與班諾之間的代溝更加深了,而且,似乎變寬了。

「とにかく、今度こそ登録完了が確認できた。これからは紙をがっつり作って売る。まずは、この街の工房を決めないとな」
「總之,就這一次做了登記完成的確認。這之後要充分製做紙張來賣。首先,不先決定這座城市的工坊不行」

 ややこしい問題が解決したので、紙を量産する工房を決めたいとベンノが言い始めた。
 由於複雜的問題解決了,班諾開始說了想要決定量產紙張的工坊。

「夏の洗礼式に合わせて工房での大量生産を始める」
「開始在配合夏季的洗禮式的工坊大量生產」
「なんで?」
「為什麼?」

 オットーが不思議そうに首を傾げた。
 歐拓不可思議似地感到疑惑。

「綿密な利益計算の結果、洗礼式が終わってルッツが見習いになった後の方が良いと判断した。二人に払う金が必要なくなる。それに、どうせ工房を決めて、道具を作らせて、原料を確保して、作り方を学んで、と準備していたら、洗礼式の頃になる」
「縝密利潤計算的結果,做了洗禮式結束的路茲成為實習之後會比較好的判斷。變得不需要支付兩個人金錢。而且,反正決定了工坊、製做了工具、確保了原料、學習到作法,做好準備的話,就變成洗禮式的時候了」
「そうですね」
「說得也是呢」

 わたし達も道具の確保が大変だった。大量生産するための大きな道具をいくつも準備するのは時間がかかるに違いない。
 我們也是工具確保很辛苦的。準備幾個為了大量生產的大工具是肯定要花時間的。

「そういうわけで、マインとルッツ。工房を決めるための参考に、紙の作り方を洗いざらい吐いてもらうぞ」
「就是這樣,瑪茵與路茲。在為了決定工坊的參考上,請把紙張的作法毫無隱瞞地吐出來喔」

 どうやら、ベンノにとっての本題はここかららしい。
 看樣子,對班諾來說的正題似乎從這裡開始。
 わたしはルッツと顔を見合わせて、疲れた溜息を吐いた。
 我與路茲面面相覷,疲憊地嘆了一口氣。

======================================================================
 既得権益との争いはこれで終わりです。
 與既得利益的鬥爭就這樣結束了。
 お互い紙を作りますが、別の組織として住み分けをすることで決着がつきました。
 雖然彼此製做紙張,但附加以作為其他的組織存在的份而解決了。

 次回こそ紙を作る工房を選んで、準備します。
 下回才是選擇製做紙張的工坊,準備著。
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