11月10日(1/10):
4人の若者達が弟子になりたいと言って訪ねてきた。カスパー、バルタザール、セマ、オリム。
この青二才どもめ…魔法の腕を見せるとか言ったくせに、友人にエネルギーボルトを飛ばしたり、テレポートで逃げたり、大慌てでシールドで防いだり…こいつらはウィザードになるよりも、雑技団でも作ってドサ周りしたほうがよかろう。
中でも一番興味を引かれたのはオリムだった。
自分は正義の使徒だから神聖な力でやっかい者を成敗する、とか言って自分の口にホーリーウェポンをかけた。
オリムが話をするたびに、ライトの魔法を使ったかのごとく周囲が光った。
私は笑いを堪えるのに必死だった。
真剣に考えなければ…ここに置いてやって、弟子にすべきか、それとも雑技団を紹介すべきか…
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6月2日(2/10):
キュアポイズンでオークの肌の色を元に戻せると考えているやつは誰だろうか。
オークに変装するとかいって、カーズポイズンを自分にかけるやつは誰だろうか。
ダイエットをするとかいって、ディクリースウェイトをかけるやつは誰だろうか。
最後に…魔力を強化させるとかいって、自分の口にエンチャントウェポンをかけるやつは…誰かわかっているが、書くには及ばない。
ふう…ヒューマンのやつらが好奇心で自らを滅ぼす順位で3位とは信じられない…もしやヒューマンというのは、ゴブリンやインプ連中についたあだ名の1つではなかろうか。
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8月9日(3/10):
ケレニス。
水の女神エヴァの娘。
己の望みをかなえる全てを持って生まれたかのごとき女。
優しい気遣いと見せかけ、気づかぬうちに罠にはめる。
そして、美しくも悲しい涙を流しながら、私の肝臓を取って食う。そんな女。
蛇の気を受けて生まれた為、一年に一度脱皮する。その抜け殻でいたずらをしつつ、好奇心に満ちた目つきで葦の陰から眺める。そんな女。
「これってできる?」ヒールをかけながら、低い声で詠唱すると、その言葉に反応するかのように水玉模様の蛇の鋭い尻尾が私のふくらはぎをかすめ、傷を負わせる。
「どうしよ…」傷を見た瞬間、彼女の詠唱は小さな両手に遮られた。
そして、私の体中の血管から血のしずくが垂れた。その瞬間に感じた甘くも生臭い血の臭い、静寂を破る息遣い。ヒールで傷が癒されるや、小さな嘆きの声が聞こえた。
奥ゆかしさも、心苦しさも知らないのだろうか。あるいは、私の好みが独特だと考えているのだろうか。
ケレニス、君はなんで私のそばでそわそわしているんだ。私の血を分けてやろうか。私がこんなことを考えるとは…水の精霊であるお前に惑わされているのだろうか…
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10月12日(4/10):
ヒューマンは特別な雑種なので、ディヴァインとも、デーモンとも付き合えることは知っていたが、魔女とも付き合えることがわかった。
水の精霊のケレニスが使うキュアポイズンの効果は実に目覚しいものだった。カスパーのためなのか、彼女のいたずら心のためなのか、オークにかかった毒を治癒しなければならないと言って、魔法を乱射した。それに驚いたオークは真っ青になって逃げてしまった。
カスパーはあくまで自分の理論が合っていると言う。魔法開発研究会で発表する資料を準備しているそうな。一方、バルタザールはケレニスの魔法こそが効果的だと言う。カーズポイズンをお願いして、オークの扮装を試みたが、ほうほうのていで逃げ帰ってきた。
オリムはケレニスに神聖なキスをプレゼントするといって、自分の唇にホーリーウェポンをかけた。セマはオリムの血が沸騰しているから鎮めなければといって、チルタッチを乱発した。オリムは死にかけた。
驚くべきは、これらすべてがたった10分の間に起こったということだ。
まったく、こいつらは…
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2月24日(5/10):
手のかかる弟子たちではあるが、それでも2段階魔法はかなり上達した。おそらく趣味嗜好が違うからだろう。先に手をつけた魔法はそれぞれてんでばらばら。しかし、他の魔法も体得して驚く速さで成長している。
ファイアーアローはもう使えそうなレベルだ。だが、まだ照準がおぼつかない。ロウソクに火をつけるとか大口を叩いたくせして、横にあったふくろうの剥製を焼く始末。
いたずらもかつてほどではない。習得のスピードは驚くほど速くなっている。それでも、まだまだわからない。なにせ、やつらの精神年齢はまだ思春期だから。
オリムとセマが大喧嘩をした。原因は定かではないが、大立ち回りを演じた挙句、オリムはディテクション魔法をセマの口にかけた。セマは怒りにまかせてチルタッチをお見舞いした。気を失ったオリムは三途の川が見えたとか言っている。やれやれ、これで二人は犬猿の仲だ。
カスパーとバルタザールのやつも不謹慎極まりない。明日オリムが起きた時、セマが仲直りするためのヒールをかけるかどうかで賭けをすることにしたそうな。勝ったら、負けた方の体中の毛という毛をファイアーアローの標的にする権利を手にするそうな。くだらん。
そして私。こういうくだらんことを日記に書いている。
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2月25日(6/10):
「バルタザール、オークに扮装するためのハゲのヅラ、あれってもう使わなくてもいいんじゃないの?」オリムはなぐさめようとして、言ったようだ…
頼むよ…オリム…
適切なレベルの学習能力と社会性は、ヒューマンが持っている数少ない長所の一つなのだから。
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5月5日(7/10):
つつじを一輪持ってきて、私の手に握らせた。
それにしても、水の精霊の気の強さはエヴァ譲りなのだろうか。それとも、生来のものなのだろうか。未だもって定かではない。デーモンをも引き付ける危険な気質だ。しかし、相手を騙すには自分をも騙さねばならない。それでは、すれっからしになってしまうだろう。
水の精霊には、治癒か毒かを選ぶ分かれ道に立たされる瞬間があると言う。しかし、ケレニス…お前はどうやら例外のようだ。
しばらく向かい合っていた。目に入るのは、目じりの小じわに口元のひきつったような微笑。背筋に悪寒が走った。ケレニスとの付き合いはほどほどにした方がよさそうだ。
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1月1日(8/10):
また新たな一年がやってきた。
1.マナを再生する必須栄養分についての研究。
2.錬金術を利用したマナの効率的な管理についての研究。
3.ヒューマンの社会性と教育効果の相互効果についての研究。
今年一年の計をこう定めた。
窓の外が明るくなる。2回目の太陽が昇るにはまだ早いはずだが…
カスパーとバルタザールのやつ、またけんかしてファイアーアローでも打ち放ったのだろうか。火だるまになって庭を転げまわっている。
せっかく決めた一年の計だが、3番目のやつは却下だ…
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6月9日(9/10):
研究対象のサンプル選定は実にやっかいだ。
弟子たちはできることが似たり寄ったりでつまらない。ウィザードたちは自分可愛さに人前でノウハウを出そうとしないものだ。
それなら、いっそ自由に実験ができるサンプルを探した方がいいのではないだろうか。他人にばれても事が大きくならずに処理できるサンプル…同時にヒューマンと同じような肉体の条件を持っていて、相当な魔力を持っているのは…
ケレニスがこちらをじっと見ている。何を考えているのか、奇妙な微笑を見せつつ、しばらくこちらを凝視していたが、いつしかどこかに急いで去っていった。
ヒューマンに生まれたら魔女になっていたであろう、デーモンを引き付けそうな気性。
「そうだ!デーモンがいた!」
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8月19日(10/10):
「ケレニス、君の役割が大変重要なんだ。」手を差し出すと、目を大きく見開いて、驚いた表情を見せつつ、甲羅に身を隠そうとする亀のように首をすくめた。 そんな自分の姿が奇妙だと気づいたのだろうか。微笑を見せつつ体を伸ばして私の手を握った。
その瞬間、マナの流れが不安定になった。それを感じつつ、握った手をそっと離した。 「どんなものでも関係ない…」ぼそぼそ声でオリムを呼んでケレニスを助けるように命じた。
必要なものは全部揃えた。あとは、ケレニスが成功することだけを待てばいい。
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